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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)7211号 判決 1986年12月16日

原告 株式会社アイチ

右代表者代表取締役 市橋利明

右訴訟代理人弁護士 松本義信

被告 大和ファクターリース株式会社

右代表者代表取締役 藤野久隆

右訴訟代理人弁護士 加嶋昭男

同 降籏俊秀

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三〇一四万七九四五円を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は債務者ワールドウイン航空株式会社(以下「訴外航空」という。)に対する債権金六〇二九万五八九〇円を請求債権として、訴外航空が第三債務者である被告に対して有する別紙差押債権目録記載の債権につき昭和六〇年五月一四日債権差押命令を申し立て、同年五月一七日その旨の債権差押命令が発せられ、右正本は同年五月二二日債務者に、同月二〇日第三債務者である被告にそれぞれ送達された。

2  右差押債権の内容は、具体的には次のとおりである。

訴外航空は国内外の旅行、ゴルフ、ショッピング等を目的とするレジャークラブの代理店で、同クラブの会員(以下「会員」という。)との間でローン契約を締結し、その代金回収業務を被告に委託していた。すなわち、訴外航空と被告は、昭和五八年四月一一日「預金口座振替による代金回収業務委託契約」(以下「本件委託契約」という。)を結び、被告は毎月一定の日に訴外航空の前記会員の預金口座から代金を預金口座振替の方法により集金し、これを一定の日に訴外航空の口座宛に所定の手数料を差し引いて振込み支払うことになっていた。

3  よって、原告は被告に対し、前記差押命令に基づき、差押債権の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実はすべて認める。ただし、差押債権の存在は争う。また、本件委託契約の委託者は、訴外航空及びワールドウインクレジット株式会社(以下「クレジット社」という。)であった。したがって、被告が回収した代金の中には、クレジット社の分も一部含まれている。その内訳は不明である。

2  被告が本件委託契約に基づき、会員から回収した代金は次のとおりである。

(1) 昭和六〇年五月四日振替 金一二〇三万六四四九円

(2) 同年六月三日振替 金七四七万五一七四円

(3) 同年七月三日振替 金七七九万一二八九円

(4) 同年八月二四日振替 金八三〇万七〇九六円

そして、差押命令が被告に到達したのは、昭和六〇年五月二二日であるから、差押の対象となるのは右(1)の金一二〇三万六四四九円のみであり、その余の債権には及ばないと解すべきである。

三  抗弁

仮りに、前記回収金がすべて訴外航空の債権であると認定された場合、被告は次のとおり相殺を主張する。

1  被告は訴外航空に対し、左記のとおり手形貸付を行ってきた。

(1) 昭和五九年一一月二〇日 金三〇〇〇万円、約定返済日 昭和六〇年四月三〇日 (残元本金一〇〇〇万円)

(2) 昭和六〇年一月二一日 金二〇〇〇万円、約定返済日 同年五月一七日 (残元本金一三〇〇万円)

(3) 昭和六〇年二月二八日 金一〇〇〇万円、約定返済日 同年五月一〇日 (残元本金七〇〇万円)

(4) 昭和六〇年四月一日 金八〇〇万円、約定返済日 同年六月二〇日 (残元本金八〇〇万円)

2  しかるに訴外航空は不渡手形を出し、昭和六〇年五月四日付で銀行取引停止処分を受けて倒産した。よって訴外航空は被告との間で締結した昭和五八年三月三〇日付ファクタリング取引契約書第一一条一項二号の定めにより、すべての債務について期限の利益を喪失した。

したがって、被告は訴外航空に対し合計金三八〇〇万円の貸金元本債権と、これに対する約定金利である年一五パーセントの割合による遅延損害金債権を有している。

3  そこで、仮りに、訴外航空が被告に対し別紙債権目録記載の受動債権を有すると認定されたときは、その認定額の限度内で同目録記載の自動債権をもって対等額において相殺する。

ただし、原告による差押の効力は、差押命令正本が被告に到達した昭和六〇年五月二二日以降発生の受動債権に対しては及ばないと思料するが、受動債権が継続的給付に係る債権(民事執行法第一五一条)に該当する恐れなしとしないので、それぞれの場合に分けて左記のとおり仮定的相殺を主張する。

(一) 差押の効力が昭和六〇年五月二二日以降発生の受動債権に及ばないとされるとき

① 自動債権 金一二〇三万六四四九円

ただし、別紙債権目録記載の自動債権1(金一〇〇〇万円)及び同2の一部(金二〇三万六四四九円)の合計

② 受動債権 金一二〇三万六四四九円

ただし、別紙債権目録記載の受動債権1

(二) 差押の効力が昭和六〇年五月二二日以降発生の受動債権にも及ぶとされるとき

① 自動債権 金三〇一四万七九四五円

ただし、別紙債権目録記載の自動債権1(金一〇〇〇万円)、同2(金一三〇〇万円)、同3(金七〇〇万円)及び同4の一部(金一四万七九四五円)の合計

② 受動債権 金三〇一四万七九四五円

ただし、別紙債権目録記載の受動債権1(金一二〇三万六四四九円)、同2(金七四七万五一七四円)、同3(金七七九万一二八九円)及び同4の一部(金二八四万五〇三三円)の合計

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、訴外航空が被告主張のころ倒産したこと及び訴外航空が被告に対し、別紙債権目録記載の受動債権1ないし4を有していることは認めるが、同目録記載の自動債権の発生については不知、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告主張の差押債権の存否の点を除き、請求原因事実は当事者間に争いがない。

そして、被告が訴外航空との本件委託契約に基づき、昭和六〇年八月二四日までに合計四回にわたり、預金口座振替の方法により会員から代金合計三五六一万〇〇〇九円を回収したことは被告の自認するところである。

ところで、被告は、本件委託契約の委託者は訴外航空及びクレジット社の二者であり、したがって、右回収代金のうち一部はクレジット社に帰属する旨主張するが、この点に関する《証拠省略》は、本件委託契約成立後約二年立った昭和六〇年四月になって、右両会社から被告に対してその旨の申し入れがあったことを示すにとどまり、遡って契約当事者が右三者となることを証明するものではなく、その他本件委託契約における委託者としてクレジット社が含まれていたことを認めるに足る証拠はない。

かえって、《証拠省略》を総合すれば、訴外航空とクレジット社とは、本件委託契約の成立当時、代表者が同じで、同一の住所地で営業を行っており、会員はクレジット社から融資を受けて訴外航空の取り扱う会員券を購入し、その代金を訴外航空に支払うという形式をとっていたが、実際の代金支払方法としては、訴外航空は更に被告との間で本件委託契約を結ぶことによって、ローン契約を結んだ会員の預金口座から振替の方法で被告に代金を回収させ、これを更に訴外航空の指定口座へ振込ませることとしていたこと、本件委託契約の当事者は、訴外航空と被告のみであって、クレジット社は含まれていないことが認められる。

右によれば、被告が回収した代金の返還請求権はすべて訴外航空に帰属するものと言うべきである。

二  次に、本件差押債権の性質について検討するに、訴外航空の右代金返還請求権は、本件委託契約によって当然に発生するものではなく、個々の会員が右会社とローン契約を締結することによってその代金支払義務が生じ、次いで、その代金回収業務を訴外航空から受託した被告において右代金を一定の日に銀行預金口座振替の方法により現実に回収して初めて個々具体的に返還義務が発生するものであるから、訴外航空の被告に対する右返還請求権は、民事執行法第一五一条の継続的給付に係る債権には該当しないものと解するのが相当である。

したがって、本件差押命令の対象は、差押命令の到達日までに被告が回収した代金である金一二〇三万六四四九円に限定され、その余の回収代金には及ばないものと解すべきである。

三  そこで、抗弁について判断する。

《証拠省略》によれば、被告は訴外航空に対し、別紙債権目録中の自動債権として記載された合計四口の貸金債権を有し、昭和六〇年五月四日ごろ訴外航空が倒産したこと(倒産の事実は当事者間に争いがない)により、すべて弁済期が到来していることが認められ、反証はない。

したがって、被告主張の相殺により、別紙債権目録記載の受動債権1である金一二〇三万六四四九円と、同目録記載の自動債権1(金一〇〇〇万円)及び同2(金一三〇〇万円)の一部(金二〇三万六四四九円)は対等額において消滅したものというべきである。

四  仮りに、本件差押債権が継続的給付に係る債権であり、したがって差押の効力が被告が回収したその余の代金にも及ぶとしても、被告主張の仮定的相殺により、別紙債権目録記載の受動債権1ないし3及び4の一部(金二八四万五〇三三円)合計金三〇一四万七九四五円と同目録記載の自動債権1ないし3及び4の一部(金一四万七九四五円)は対等額において消滅したものと言うべきである。

五  よって、いずれにしても、被告の抗弁は理由があるから、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥山興悦)

<以下省略>

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